「将来、どんな仕事をしたいですか?」
学校では、こうした質問をされる機会があります。
しかし、進路を考えるときに語られるのは、どちらかというと「どの学校へ進学するか」「どんな職業に就くか」といった話が中心になりがちです。
その先にある、もっと根本的な問いがあります。
「自分は、どのような働き方で生計を立てていきたいのか」
この視点から考えると、会社員になることだけが「働く」ということではありません。
自営業、個人事業主、フリーランスなど、実社会にはさまざまな働き方があります。
そして、それぞれには自由と責任、安定と不安定、収入の伸び方、時間の使い方など、大きな違いがあります。
自分の意思で会社に入っても、会社では自分だけでは決められない
会社員になることは、もちろん本人の意思による選択です。
自分で応募し、自分で入社を決める。
しかし、一度組織の中に入れば、仕事の進め方や勤務時間、人間関係、会社のルールなど、自分一人の意思だけでは決められないことが増えていきます。
「今日は休みたい」と思っても、勝手に休むことはできません。
仕事の進め方についても、上司や会社の方針に従う必要があります。
同僚との関係に気を遣うこともあります。
つまり、自分の意思で入社したとしても、会社という組織で働き続けるためには、組織に適応することが求められます。
そのため、会社勤めでは仕事そのものだけでなく、組織の中でうまく適応することにもエネルギーを使うことになります。
これは、会社員として働くうえで避けられない側面の一つでしょう。
自営業なら「今日は休む」も自分で決められる
一方、自営業の場合はどうでしょうか。
もちろん、自営業にも仕事があります。
お客さんを集め、サービスを提供し、売上を上げ、経費を支払い、税金や社会保険などにも対応しなければなりません。
決して「自由=楽」という話ではありません。
それでも、会社員とは大きく異なる部分があります。
仕事に関する意思決定の主体が、自分自身にあることです。
たとえば、
- 今日は休む
- 今日は午前中だけ仕事をする
- この仕事は引き受けない
- このお客さんとは取引しない
- この価格では提供しない
- もっと別のサービスを始めてみる
といった判断を、自分自身で決めることができます。
もちろん、その選択には結果が伴います。
休めば売上が減るかもしれません。
お客さんを断れば、その分の収入を失うかもしれません。
価格を上げれば、顧客が離れる可能性もあります。
しかし重要なのは、その結果を引き受ける代わりに、自分で決められる範囲が広いということです。
上司も同僚もいない。
だからこそ、仕事の動かし方について自分で考え、自分で決める必要があります。
自営業も「労働」ではある
ここで、自営業を会社員より優れた働き方として単純に考える必要はありません。
自営業者も、自分で働いて収入を得ているのであれば、広い意味では労働によって生計を立てています。
むしろ会社員以上に働かなければならないこともあります。
休めば収入が減る。
病気になれば仕事が止まる。
集客できなければ売上がなくなる。
経費や税金などの負担も自分で管理する必要があります。
会社員には会社員のリスクがあり、自営業には自営業のリスクがあります。
違うのは、誰が意思決定をするのかという部分です。
会社員の場合、組織の中で決められたルールに従って働くことになります。
自営業の場合は、自分で決めて、自分で責任を負う。
この違いは非常に大きいものです。
収入の伸び方も違う
働き方を考えるうえでは、時間だけでなく収入についても考える必要があります。
会社員の場合、基本的には会社との雇用契約に基づいて給与を受け取ります。
もちろん昇給や昇進、成果による報酬などはありますが、自分が会社にもたらした利益が、そのまま自分の収入になるわけではありません。
一方、自営業の場合は、事業を成長させることで売上や利益を大きく伸ばせる可能性があります。
もちろん、売上が増えればそのまま手取りが増えるわけではありません。
仕入れ、家賃、広告費、設備費、税金、社会保険料など、さまざまな費用があります。
それでも、自分の事業の利益を増やすことが、自分の所得を増やすことに直接つながりやすいという特徴があります。
つまり、
「どれだけ働くか」
だけではなく、
「どのような仕組みで収入を得るのか」
という違いがあるのです。
「会社員になる」以外の選択肢も知っておきたい
学校を卒業して働くというと、「会社に就職する」というイメージが強いかもしれません。
しかし、社会に出れば、
- 会社員
- 公務員
- 自営業
- 個人事業主
- フリーランス
- 家業を継ぐ
など、さまざまな働き方があります。
もちろん、それぞれに向き不向きがあります。
安定を重視する人もいれば、自由を重視する人もいます。
人間関係の中で働くことが得意な人もいれば、一人で仕事を組み立てるほうが力を発揮できる人もいます。
決められた時間に働くほうが安心できる人もいれば、自分で時間を決めたい人もいます。
だからこそ、若いうちから「会社員になること」を唯一の前提にするのではなく、さまざまな働き方を知ったうえで、自分に合うものを考えることが重要なのではないでしょうか。
学校で「自分で生計を立てる」シミュレーションをしてみる
ここで、学校教育にあってもよいと思うのが、「自分で生計を立てるシミュレーション」です。
たとえば18歳や22歳になった自分を想定します。
月収はいくらなのか。
そこから税金や社会保険料はいくら引かれるのか。
家賃はいくらか。
食費はいくらか。
光熱費、通信費、交通費、保険、日用品にはどれくらいかかるのか。
毎月いくら貯金できるのか。
病気になったらどうするのか。
仕事を失ったらどうするのか。
結婚や子育てをする場合には、どのように生活費が変わるのか。
こうしたことを実際に数字にしてみるのです。
さらに一歩進めて、
「では、あなたはどのような働き方なら、この生活を維持できますか?」
まで考えてみても面白いでしょう。
「進学すること」と「働くこと」を対立させない
進学すること自体が悪いわけではありません。
専門的な知識を学ぶために大学や専門学校へ進むことには、大きな意味があります。
ただ、進学を「働く前の当然のステップ」として捉えるだけではなく、
「何のために学ぶのか」
「将来どのような働き方をしたいのか」
まで考えることが大切なのではないでしょうか。
大学へ進学する人もいれば、専門学校へ進む人もいる。
高校卒業後に就職する人もいる。
いったん働いてから学び直す人もいる。
自営業を始める人もいる。
どれが正解ということではありません。
大切なのは、本人がそれぞれの選択肢を知り、そのメリットとリスクを理解したうえで選べることです。
「仕事を選ぶ教育」から「生き方を設計する教育」へ
学校で必要なのは、単に「将来なりたい職業」を考えることだけではないのかもしれません。
もっと現実的に、
「自分はどうやって生活していくのか」
を考える機会があってもよいはずです。
どのくらいのお金が必要なのか。
どのくらい働けばいいのか。
どの程度の自由が欲しいのか。
人間関係をどこまで重視するのか。
安定を選ぶのか、収入の上限を求めるのか。
会社という組織の中で働くのか、それとも自分で仕事を作るのか。
そうした問いに正解はありません。
だからこそ、早い段階でいろいろな働き方を知っておくことには意味があります。
まとめ:「会社員になる」ではなく「どう生きるか」を考える
会社員には、安定した給与や社会保障、組織の力を利用できるというメリットがあります。
一方で、勤務時間や仕事の進め方、人間関係など、自分だけでは決められないことも多くあります。
自営業には、自分で仕事を決められる自由があります。
その代わり、収入の不安定さや事業上の責任を自分で引き受けなければなりません。
つまり、
会社員が正解でもなければ、自営業が正解でもありません。
重要なのは、それぞれの違いを知ったうえで、自分に合った働き方を選べることです。
そして、そのためには学生のうちから、
- 「働くとは何か」
- 「お金を稼ぐとはどういうことか」
- 「自分で生計を立てるには何が必要なのか」
を具体的に考えてみることが役立ちます。
進学先を選ぶだけではなく、その先の生活まで想像してみる。
会社員だけではなく、自営業やフリーランスという選択肢も知っておく。
そして、自分がどんな生活をしたいのか、そのためにはどんな働き方が合っているのかを考える。
「どんな仕事に就くか」だけではなく、「どんな働き方で、どんな人生をつくるか」。
これを学生のうちから考える機会があれば、社会に出てからの選択肢は、今よりずっと広がるのではないでしょうか。

